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最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)587号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

辯護人平井虎二上告趣旨第二點について。

しかし、検事が控訴をするには、控訴申立書を第一審裁判所に差出せば足り、原審公判廷で控訴の理由を陳述することを必要としないことは刑訴第三九六條で明らかなところである。そして、検事が被告人野崎義秋外三名に對する第一審判決に對して控訴申立書を第一審裁判所に差出したことは、一件記録で明らかなところであるから、被告人野崎義秋に對する検事の控訴は原審第一回公判當時には既に適法になされていたものである。又検事が控訴の趣旨理由を陳述するのは被告人のする控訴の趣旨理由の陳述と同様に、事実關係及び争點等を明らかにして、審理の進行に資するという程度の意義しかないものである。それ故、所論のように、原審公判廷において検事が中野、奥野及び玉垣の三被告人に對しては控訴の理由を陳述したが、被告人野崎に對しては控訴の理由を陳述しなかったからといって、検事は同被告人に對する控訴を特に取下げたものと解することはできない。されば、原審が被告人野崎義秋に對して第一審判決の刑よりも重い刑を言渡したからといって、原判決には刑訴第四〇三條に違背する不法あるものとはいえない。論旨は理由がない。

同第三點について。

しかし、検事の申立てた控訴が理由あるか否かの判斷は、刑訴第三六〇條に定める有罪の判決に付すべき理由にあたらないのは勿論他にかような判斷を示すべき趣旨の規定も存在しない。しかのみならず、控訴覆審主義を採っている現行刑事訴訟法の下においては、控訴理由の有無については判示する必要がないのは當然である。それ故、原判決には所論のような判斷逸脱の違法はない。論旨は理由がない。

同第四點について。

しかし、共同被告人の刑の量定に當り、所論のごとく刑の長短軽重についての根據理由を特に判示すべき必要はどこにも存在しない。又上告人等は何れも原審で酌量減軽を得ているに拘わらず、偶々相被告人の一人が酌量減軽を得なかったとしても、その理由を判示すべき必要はないばかりでなく、上告人等の上告理由となるべき譯がない。從って、本論旨は上告適法の理由とならない。(その他の判決理由は省略する。)

よって刑事訴訟法第四四六條により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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